夢の中では笑えるのに

「早く居なくなりたい」

そんな事を毎日願っていた保育園時代

何一つ楽しい事なんてなくて

ヤクザの付き人をしてる16歳上の姉に

手を引かれながら帰るのは今日も事務所

 

4歳でお茶の正しい汲み方を教わって

華道に茶道に麻雀に将棋にパチンコに

それからそれから...

幼い子供にはそぐわないモノばかりあてがわれて

やっぱりまた「早く居なくなりたい」と願う

 

保育園からのイジメは

想定通り小学生になっても継続

でも、なんにも辛くなかった

問題は学校から帰ってからだった

相変わらず事務所に入り浸る日々

ヤクザがなんなのか

小学生のあたしには分からなかった

父親なわけではない

母は秘め事の多い人だったから

本当の事なんて何も知らなかった

 

躾という名の拳が怖かった

学校のイジメなんて比じゃなかった

だからあたしは学年全員から無視されても

何も気にしていないかのように飄々としていた

でも、その姿がイジメをよりエスカレートさせた

泣き喚く様を見たかったんだろう

まるで何も気に留めていないかのように

掴みどころのないあたしは皆に嫌われた

 

友達なんてひとりも居なかった

だけど、ちっとも淋しくなんてなかった

だって、早く居なくなりたかったから

 

あたしが泣くと

ヤクザが夜から朝方まで母を怒鳴りつけた

鳴り止まない怒声、汚い言葉の弾丸

自分が泣いたせいだと酷く自責した

 

それ以来、泣きたい時は

枕に顔を押し付けて声を殺して泣いた

それをする度に、自分の事も殺した

 

幼い殺人鬼だった

殺した数を数えていたら気が遠くなる程

自分を殺して殺して、殺し抜いた

 

あたしは此処に居るけど

何処にも居ない存在

 

さて、このお話の続きはまた今度

 

"夢の中では笑えるのに"